テレビ研究さ・し・す・せ・そ(3)
こんにちは!
ドキュメンタリー映画や番組、映像文化を研究しているMasatoです。
「テレビ研究のさ・し・す・せ・そ」と題して連載してきたこのシリーズも、
今回で最終回です。
(三記事分の文章を書いたので、当分は執筆依頼が来ないと思ってます・笑)
さて、ここまで「NHK番組アーカイブス学術トライアル研究」と「放送博物館」についてご紹介してきました。
今回は、NHKがどんな番組を保管しているのかという中身の話をしていこうと思います。
近年、デジタル技術・アーカイブ業務の進展によって、
安価なビデオテープが普及しはじめた80年代頃の番組が再放送される機会が増えてきました。
しかし、それ以前のフィルム時代のものになると、収集状況も保存状態も決して万全とは言えません。
それでも、終戦前後から1960年までで、ラジオ番組だけの指定でも5000件以上がヒットします。
中には、番組自体は残っていなくて台本だけのものもありますが、
NHKがラジオ時代に放送していた斬新な番組に出会えることもあります。
社会問題を取り上げるラジオ・ドキュメンタリーや、『音の風景』のような環境音を録音した番組、
歌謡・クラシックコンサート、ラジオ・ドラマといっても子供向けの教育番組から、
初期の有名な風刺番組『日曜娯楽版』のようなものまでいろいろあります。
テレビ番組では、ドキュメンタリーであれば、初期テレビ・ドキュメンタリーとして放送史に名を残している
『日本の素顔』(1957-64)、『現代の記録』(1962-64)、『日本縦断』(1961-62)などが残っています。
音声が欠けていたり、地方局制作の回が台本しかなかったりもするのですが、
これらには当時の世相を表す様々な問題・主題が、NHKらしい視点から切り取られています。
意外なことに、1930年代から終戦を迎える1945年までで検索すると、同じように多くの番組がヒットします。
『映像の20世紀』のような映像アーカイブ番組のために集めているようですが、
たとえば、大本営発表のニュースのような番組の他に、歌謡などの娯楽番組もかなり残っていることもわかりました。
NHKのホームページでも、『日本ニュース』とともに戦時期のラジオ放送が公開されているので、
実際に音を聞いてみたい方はこちらにアクセスしてください。
戦前の音声資料は、70年以上も昔のものなので、全面公開できそうにも思えます。
日本の場合、著作権は期限切れする一方、資料を公共財と捉えて公開を義務づけるような法規定がないため、
公開是非の判断責任は各企業・団体が負っています。
現代のコンプライアンスに即して整備・公開が進んでいると予想すると、当時の差別的な表現など、
簡単に公開できない事情がありそうです。
ただ、NHKの所有している番組資料は一級の歴史資料なので、そうした事情を踏まえた上での
全面的な公開が実現したらいいなというのが研究者としての本音です。
NHKアーカイブスの収集・保存・公開している資料の内容は、
日本文化にかかわる研究であれば、どんな研究テーマにも関わってくるほど厚みがあります。
放送史研究の分野では、言説分析のような議論が進んでいますが、
映像それ自体の分析はまだまだほとんど行われていないのが実情です。
そしてその方法論も十分が議論が行われていないために、どちらかというと表象分析に偏っているという印象があります。
ですが、映像に着目している(とりわけ若手の)研究者には、大きなフロンティアになることは間違いありません。
ハードルは色々ありますが、ぜひ、国内外の若手研究者に「NHK学術利用トライアル」にトライしてほしいです。
また、NHKだけでなく、放送文化の映像資料は全般的に、映画にくらべるととても開かれているように感じます。
横浜放送ライブラリーや川崎市民ミュージアムも、膨大な資料を無料で公開しており
ぶらりと立ち寄るだけでそれらが閲覧できるようになっています。
なかでも、放送ライブラリーは、大学と連携して、教育現場での放送資料の利用を積極的に進めています。
公開されているもののなかには、テレビフォーマットが定型化する以前に試行錯誤しながら制作された古い番組もあり、
内容的にも表現的にも過去から学ぶべきものがたくさんあります。
大島渚などの名のある映画作家がテレビ制作に関わったことも度々あり、
そうした作品の多くもこうした番組アーカイブ施設で公開されています。
映像に興味がある学生のみなさん、テレビ史を学んで「いま」の番組づくりに生かしたいと考えている制作現場のみなさん、
コミューンはこうした歴史的な知識に富んだメンバーが集まっています。
どんな形でもご協力可能です。ぜひ、声をかけてください。
それでは、三回に渡って続けてきたこのシリーズは、とりあえず終わります。
今度、コミューンで遠足のようなものをすると連絡がありました。
そのレポは誰が書くのか!????
次回の更新をお楽しみに!
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